前回は子どもの再トラウマ化の予防に焦点を当てて児童相談所でのTIC研修の可能性についてご紹介しましたが、今回は児童相談所職員の燃えつき防止に焦点を当ててTICの可能性についてふれたいと思います。
児童福祉職員の離職は大きな課題となっており、その要因としてバーンアウトが注目されています1。バーンアウトとは、児童福祉職員、医療従事者や教師などの対人支援職によく見られ、今まで普通に仕事をしていた人が, 急に「燃え尽きたように」 意欲を失う状態です。また、仕事に一生懸命な人ほどバーンアウトになりやすいとも言われており2、専門知識やスキルと経験のある職員が能力を発揮するためにも、バーンアウトの予防は重要であると考えられます。
児童福祉職員のバーンアウトの要因の一つとして、業務でのトラウマ体験が指摘されています3。以前ご紹介させていただいたように、私たちの先行研究では、職員の87.1%が業務でのトラウマ体験をしており、その経験の種類が多いほど、精神症状が悪くなる傾向がみられました(児童相談所でのトラウマとTIC)。業務でのトラウマ体験をゼロにすることは難しいですが、1つでも増やさないようにすることが、職員のバーンアウト予防につながるかもしれません。
児童福祉施設の職員を対象とした先行研究では、組織ぐるみでTICに取り組んだ施設の方が、支援する子どもから職員が受ける身体暴力の回数が少なく、ストレスレベルが下がることが示されています4。業務でのトラウマ体験を増やさない、バーンアウト予防のための対策として、児童相談所へのTIC導入は一つの選択肢となりうるかもしれません。
片岡真由美
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所公共精神健康医療研究部)
【出典】
- 加藤尚子, & 益子洋人. (2013). 児童養護施設職員のバーンアウトに関する研究-職員支援にもとづく被措置児童等虐待防止の観点から
http://hdl.handle.net/10291/16566 - Maslach, C., Schaufeli, W. B., & Leiter, M. P. (2001). Job burnout. Annual review of psychology, 52(1), 397-422.
https://doi.org/10.1146/annurev.psych.52.1.397 - Sage, C. A., Brooks, S. K., & Greenberg, N. (2018). Factors associated with Type II trauma in occupational groups working with traumatised children: a systematic review. Journal of mental health, 27(5), 457-467.
https://doi.org/10.1080/09638237.2017.1370630 - Schmid, M., Lüdtke, J., Dolitzsch, C., Fischer, S., Eckert, A., & Fegert, J. M. (2020). Effect of trauma-informed care on hair cortisol concentration in youth welfare staff and client physical aggression towards staff: results of a longitudinal study. BMC public health, 20(1), 1-11.
https://doi.org/10.1186/s12889-019-8077-2