児童相談所職員におけるTIC研修の可能性

全国の児童相談所が対応する児童虐待相談は年々増えており、令和2年度では20万件を超え、過去最多を記録しました1。児童相談所が受ける相談全体のうち、虐待に関する相談の割合は約32%に上ります2。また、児童養護施設に入所している児童の、38.4%~78.1%が虐待された経験があると報告されており3、児童相談所の職員が関わる子どもはトラウマ経験をしている可能性が高いと考えられています。

トラウマインフォームド・ケア(TIC)は、職員がそのトラウマ体験と影響を理解して対応することで、子どもの再トラウマ化を予防できると考えられています。

児童福祉職員を対象とした先行研究では、職員がTIC研修を受けることによって、職員のトラウマの知識、対応への自信が向上し、関わる子どもの精神的健康が改善し、養育者のストレスが軽減する可能性が示唆されています4。また、大阪の児童相談所の児童心理司を対象とした研究では、TIC研修の受講回数が増えるほど、児童心理司がTICを実践できていると感じるようになったことが報告されています。

児童相談所にTICを導入していただくことは、子どもの再トラウマ化を防ぎ、職員の方々のトラウマ体験を減らすことにつながる可能性があるかもしれません。

片岡真由美
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所公共精神健康医療研究部)


出典

  1. 令和2年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値) 厚生労働省
    https://www.mhlw.go.jp/content/000824359.pdf(2021年10月1日閲覧)
  2. 平成 30 年度福祉行政報告例の概況 厚生労働省
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/gyousei/18/dl/gaikyo.pdf(2021年10月1日閲覧)
  3. 児童養護施設入所児童等調査の概要 (平成30年2月1日現在)厚生労働省
    https://www.mhlw.go.jp/content/11923000/000595122.pdf (2021年10月1日閲覧)
  4. Bunting, L., Montgomery, L., Mooney, S., MacDonald, M., Coulter, S., Hayes, D., & Davidson, G. (2019). Trauma informed child welfare systems—A rapid evidence review. International journal of environmental research and public health, 16(13), 2365. https://doi.org/10.3390/ijerph16132365
  5. 浅野恭子, 亀岡智美, & 田中英三郎. (2016). 児童相談所における被虐待児へのトラウマインフォームド・ケア. 児童青年精神医学とその近接領域, 57(5), 748-757. https://doi.org/10.20615/jscap.57.5_748