こころのケガに配慮するケア(トラウマインフォームドケア)の実践例

実際に、どのようなことがこころのケガに配慮するケア(トラウマインフォームドケア)に当たるのでしょうか。Ravi, A., & Little, V. (2017). Providing trauma-informed care. American family physician, 95(10), 655-657. でRavi医師(米国の家庭医)らが家庭医向けの実践例を紹介しています。

来院前

  • 患者のカルテにトラウマ関連の記録が無いか確認し、患者に過去の経験について再び聴くことがないように準備をする。

診察時

  • 医師-患者間に存在する力の不均衡を減らすためにお互い着席する(研修医や学生、スタッフにも着席を促す)
  • 患者が一人で診察を受けられるような選択肢を提供する(例えば、サポートスタッフが同伴の子どもの世話をする)
  • 診察開始時に守秘義務を強調する
  • これまでのことを聴かれることや、検査、手順などについてどういうことが起こるか患者に心づもりをしてもらう
  • 質問や懸念に対処するために、診察中にメモを取る可能性があることを患者に知らせる
  • 薬物使用歴や性行為歴など、デリケートな質問をする理由を説明する
  • 通訳を利用する場合、可能な限り、患者に通訳者の性別や文化的な希望があるかどうか尋ねる

侵襲的な検査や処置

  • 特定の検査に代替手段がとれるかどうかを判断する(例えば、膣炎検査時に膣鏡診の代わりに綿棒の自己挿入を提案する)
  • 患者のサポートのために、部屋に他の人がいることを希望するかどうか尋ねる
  • 患者が衣服を脱ぐ前に、手順全体を説明し、同意を得たうえで、適切な機器(例えば、綿棒やパパニコロウ塗抹容器の包装を外し、スコープや検鏡に潤滑剤を塗布する)を準備する
  • 検査が五感に与える影響について説明する(例えば、「検鏡を開くときにカチッと音がします」、「検鏡や直腸鏡の潤滑剤が冷たく感じるかもしれません」、「のどに綿棒を入れる時に、おえっとくるかもしれません」など)
  • 患者が検査のペースを決め、何かしらの不快感や休憩が必要な場合は(言語またが非言語的な)合図を送ることができることを事前に相談しておく
  • 検鏡の自己挿入を提案する
  • 処置後の備品を患者に提供できるように準備をする(例えば、検鏡や直腸鏡を使用したあとのティッシュやふき取るもの)

画像検査

  • 侵襲的な画像検査(経膣超音波検査や陰嚢超音波検査など)、閉塞的な画像検査(磁気共鳴画像法(MRI)など)や重さのある画像検査(胸部X線撮影時の鉛エプロンなど)をする可能性がある場合には、事前に患者に注意を促す

紹介

  • 紹介先へ患者の関連するトラウマの履歴について事前に通知し、適切に準備ができるようにする

診察後

  • 患者が診察中に解離や気が散るほどの不安に襲われた場合に備え、アフターケアの方法とフォローアップの計画を書面で提供する
  • 患者に提供する受診サマリーや文書に、診断に配慮した言葉を選ぶ

(表 医師のためのトラウマインフォームドケア を筆者が翻訳)

トラウマインフォームドケアという言葉を介していなくとも(例えばプライバシーの保護など)、これらのトラウマインフォームドケア実践例の中に皆さんがすでに実践されていることもあるかと思います。これからも研究活動を通して、皆さんと一緒に学んでいきたいと考えています。


筆者:ぽん